工具を手にした手が、迷い無く動いては導線を繋いでいく。マホロアは墜落によってすっかり壊れてしまったローアの飛行基盤の状態を確認し、慎重に修復作業をしていた。思ったより損傷が激しい。小さく舌打ちをした。ローアが宇宙を飛ぶにはまだまだ調整が必要な様だ。
神経を使う細やかな作業が続き、マホロアは伸びをして溜息を吐いた。ぱきぱきと肩が鳴ったところで、シュン、と後方からローアの扉が開く音が聞こえた。マホロアが振り返ると、砂埃にまみれたカービィとデデデが入ってくる所だった。海岸付近に行っていたのだろうか、彼らからは潮の香りがした。
「あー暑かったなぁ!」
「あはは、焼けちゃったねえ」
そんな事を言いながら二人はマホロアの方へ歩いてきた。彼らの体には浅い傷が刻まれており探索の苛烈さが伺えるようだったが、そんな事よりも彼らの服から零れるさらさらとした砂の方がマホロアには重要だった。精密機械に砂塵は厳禁だ。ローアを汚しやがって、と内心毒づく。そんな内情を見事に隠し、マホロアは二人へ明るく笑いかけた。
「オカエリ、二人トモ! お疲れサマッ」
「おーただいま。そら、エナジースフィア!」
デデデはニカッと笑い、マホロアにきらきらと光る結晶を投げ渡した。
「アリガトウ! サスガァ、ホントに頼もしいネッ」
貼り付けた笑みで適当にお世辞を言うと、デデデは照れ臭そうに頭をぽりぽりと掻いた。そのまま彼は風呂浴びてくる、と足早にその場を離れた。
「……?」
「デデデ、女の子に誉められるのに慣れてないんだよ」
何かしてしまったかと首をかしげていると、そうカービィが答えた。へえ、と相槌を打つ。分かりやすい男だ。そうして小さくなっていく大王の姿を小馬鹿にしつつ見送っていると、カービィがマホロアの前に手を差し出した。
「あ、そうだ。マホロア、これあげるよ」
彼の手には、彼の髪と同じ色のあめ玉があった。ピンク色に透き通った硝子玉の様で、随分と綺麗なものに見えた。
「エ? ボクは良いヨォ、貰う理由が無いし。ソレニ、カービィの方が疲れテルデショ?」
「でも、マホロアだってずっと一人で修理してたんでしょ? だからお疲れ様って事で。……あ、甘い物嫌いだった?」
「……ウウン、好きダヨ。アリガトウ、カービィ!」
一瞬の間の後、マホロアは笑顔を浮かべて飴を受け取った。「良かった、僕お勧めの味なんだ」などと言ってカービィは微笑むと、彼も自分が汚れている事に気がついたのか水を浴びにいった。
「あとでね!」
そう言って手を振るカービィに、マホロアも笑って手を振り返す。
(馬鹿なヤツ…)
誰にでも笑顔を振り撒いて優しくして、騙されているとも知らずに、本当に馬鹿だ。そうマホロアは笑おうとしたが、上手く笑えなかった。口元を隠す服で良かった。手の中の飴が、マホロアの体温で少しずつ融けていく。心が落ち着かない。この高揚感の名前が、嬉しいだとか、楽しいだとか、そんな感情であるかも知らないマホロアは、ただ戸惑っていた。