最近入った新人が凄い

※はたらくマターズシリーズ。ほぼモブ視点。

 最近入った新人が凄い。まず仕事が出来る。いや、最初は出来ないのだ。驚く程に物知らずで、常識めいた事までわざわざ確認してくる物だから、最初は鬱陶しく思う事もあった。だが、一旦理解すると凄まじい処理能力を発揮して、気が付くと一番仕事が出来る男になっていた。
 また、彼は見た目も良かった。褐色の肌に精悍な顔立ちで、白く長い髪を上で縛って纏めている。男性的な魅力が強く、彼が出る日は女性陣は色めき立った。そして性格も悪くなく、どんな相手に対しても丁寧であるし、冷静で頼りになるので上司や男性職員からも受けは良かった。

 そんな彼は、表だっては呼ばれないが、裏では王子様と呼ばれていた。
「何で王子様がこんな所で事務仕事やるのよ」
「事情があるのよ! だってほら、物腰柔らかいし、紳士的だし、頭も良いし、何より物凄い世間知らずじゃない」
「……まあ、確かに世間知らずは、そうだけど」
 そう言って同僚の女性二人は彼から離れた所でやいのやいの騒ぎ立てていた。ちらりと視線の先で伺った彼は荷物を纏めて帰ろうとしていたが、王子様と言うとその所作まで何となく洗練して見えるから不思議だ。
「でも王子様って、流石にそれは……」
 このご時世無いんじゃないの、と片方の女性が否定しようとした矢先だった。入口の扉ががらりと開け放たれ、白髪を逆立てた若い男がきょろきょろと中を見渡した。そして王子様に目を止めると、彼は喜色一杯の声で話しかけるのだが、職員二人はその内容に耳を疑った。
「ゼロ様! もう仕事終わりですよね、一緒に帰りましょう!」
「何だ、わざわざ迎えに来てくれたのか?」
「大した距離じゃないので」
 様付け。この現代社会において様付けされる関係性とは。二人が目を白黒させている内に、満面の笑みを浮かべて王子様を迎えた男は恭しいとも言える動作で手を引いて、彼らは扉の外へと消えていった。そこには明らかに現代社会には不釣り合いな敬意と好意があった。
「マジで王子様なの……?」
「やっぱりそうだって!」

 また、別の日には黒髪の男がこれまた様付けして彼を迎えに来たものだから、ますます王子様の説得力は増す事になる。後日、ゼロは直接王子と呼ばれて首を傾げる事になるのだが、その呼び名の理由を聞くと皆一様に口を揃えて「隠さなくて良いんです、何か事情があってこんな所で働いているんですよね」と言う。この世界の人間は変わってる。ゼロはそう思った。


【てきとうな設定】ゼロ…事務仕事に勤務。PC操作も覚えた。星の戦士の封印の影響は未だ残っており、酷い頭痛に襲われる事もあるので出勤自体は控えめ。ただ頭痛薬を飲んだら少しマシになった模様。化学物質の力ってスゲー。