夜の大気は心地良い。昼間は陽の光を浴びてふかふかする草も、日が暮れると涼しい風に撫でられてさらさらとした感触に変わっている。ごろん、と草の上に寝転んだカービィは、頭上に広がる紺青の夜空を見上げていた。今日は、雲一つ無い晴天だった。だから、今日は星が良く見られるのではと思い外に出たのだが、案の定いつもよりも素晴らしい星空がカービィの瞳に映っていた。
「綺麗だなぁ…」
カービィは星を見るのが好きだった。星々を自由に行き来出来るカービィにとって、夜空にある一つ一つの輝きがまだ見ぬ冒険の舞台だった。そして同時にその輝きは、旅先で出会った友人達の故郷なのだ。だから、夜空を見ると懐かしい友の顔が浮かんで温かい気持ちが湧き上がり、そして新しい旅路を思い浮かべては胸が高鳴るのだ。
そうして暫くカービィが満面の夜空を堪能していると、青い一筋の光が夜空を駆けた。
「…? 流れ星…かな」
とりあえず願い事をしておこうかな、と目を閉じて、美味しいトマトがお腹一杯食べれますようにと何度か呟いていると、カービィの全身を突如強風が嬲った。吹き飛ばされそうな風に驚いていると、今度は鼓膜が破れそうな程の轟音が周囲に鳴り響いた。
「な、何!?」
カービィがどうにか目をこらすと、草原の一箇所に小さなクレーターの様な物が出来ており、その中央には青白く輝く宝石の様な物が輝いていた。先ほどの風や音は、これが空から落ちて来た為だったのだろう。カービィが恐る恐るその宝石を手に取ると、宝石は自ら内に秘めた光と月の光を反射して美しく輝いた。
「…隕石の、宝石…かな?」
そんなものあるのだろうか、とカービィがまじまじとその宝石を見詰めていると、その宝石は急に白く輝き、夜空の一点を指した。驚きながら、カービィがその光の先を見詰めると、小さな少女が空から落ちて来るのが目に入り、カービィは目を見開いた。
「きゃあああああああ!!」
段々と近くなる甲高い悲鳴と共に、凄い勢いで空から落ちてくる小さい体は一直線に草原へと落ちようとしていた。このままじゃいけない、と受け止めようとカービィが落下点に手を伸ばし、襲い来る衝撃に耐えようと足を強く踏みしめた瞬間、彼女の小さい体がカービィの手の中に収まった。
――思ったより、痛くない。不思議に思い、カービィは受け止めた少女、リボンをよくよく見ると、彼女が随分小さい事に気がついた。30センチ、あるか無いかの大きさだった。彼女の背には透き通った羽が二枚生えており、彼女が妖精の一族である事を表していた。妖精が住む星があるとは風の噂で知っていたが、どうしてこんな所に…とカービィが考えていると、腕の中のリボンが大きな青い瞳でじっとこちらを見ている事に気がついた。
「ええと…君、どうしたの? あ、僕はカービィって言うんだけど」
「…アナタは、強いですか?」
「え、ええと…そこそこかな? どうだろう…ああ、でもこの星では僕が一番強いと思うよ」
いきなり投げかけられた問いにカービィが困惑しながらもにこやかに答えると、リボンはカービィの腕に縋りついて泣きついた。突然の事にカービィが驚くと、リボンは悲痛な声でカービィに哀願した。
「どうか、どうかリボン達を、姫様を助けて下さい…!!」
ぼろぼろと両の眼から涙を流しながら必死に頼むリボンの姿を見て、カービィの心はすぐに決まった。どんな敵であろうと、助けを求める人の手を無碍に払う事なんて、彼には出来なかった。
彼女の小さい手を取り、泣いている彼女に柔らかく、それでいて力強い笑みを向けた瞬間から、カービィの新しい旅が始まったのだ。