命を大事に

手合わせするリアルとミラ。

 手合わせしようとミラが言うから、良い鍛練になると思い二つ返事で承諾した。最初は軽口も交えながらの和やかな物だったが、次第に互いに火がついてしまった。無言で打ち合う時間が長引くほど、全身の血が熱を帯び、沸騰したようだった。ミラが短い詠唱と共に放ったカッターをとっさに左手で受けて、腕から赤い物が飛び散った。それを見たミラの肩がびくりと震え、動きが止まった。赤い目が大きく見開かれていた。好機だ。そんなミラの懐に入り、足を踏み出し体と腕を捻り、その反動で素早く彼の首に刃を当てた。
 ――勝った。
 それを実感し、ほ、と息を吐くと張り詰めていた空気が割れて、世界に音が戻った。かしゃん、と剣を鞘に入れると、目の前のミラが突然手を振り上げた。今度は私が目を見開く番だった。ぱあん、と乾いた音が響いた。
 負けたのがそんなに気に食わなかったのだろうか、と思ったらミラは眉を顰めて言った。お前、怖いよ。何がだ、と問い返したら、呆れたように肩を竦められた。私としては、理由なく殴ってくるお前の方が怖い。と言ったらまた殴られた。お前を心配してやってるのに!と怒り出した。訳が分からない。

◆◆◆

無題

原作カービィ2後の話。リアルはゼロが居る限り不死です。

「おおリアルよ、死んでしまうとは情けない」

 その声で、リアルの意識は戻った。芝居がかった口調に振りまでつけて、ミラは白い顔色で寝台に横たわったリアルにそう言った。血がまだ足りていない。リアルの視界は半分程まだ霞がかかっていたが、どうにか起き上がった。リアルの服は、血を吸って随分と黒く重くなっている。肌にべっとりと貼り付く感触が気持ち悪い。
「お帰り」
「ゼロ、さま……すみません」
 そう言って迎えたゼロに、リアルは深く頭を下げた。星の戦士は殺せなかった。
「お前が負ける程の使い手か、星の戦士は。どんな奴だった」
「子供、でした」
「ガキに負けたのかよ、かっこわる」
 リアルの答えに、ミラは肩を竦めた。
「リアル程の使い手が倒れる程の奴だ。油断ならない相手だぞ、ミラ」
 ゼロの言葉に、ミラは己の驕った発言を恥じ入った様に俯いた。
「――まあ良い、後でまた詳しい話を聞く。今はよく休んでおけ」
 それだけ言うと、ゼロはリアルの部屋から離れた。その後を追うように、ミラも慌ただしく出ていった。ちゃんと大人しく寝とけよ、と声をかけて来たので、彼は彼なりに自分の事を心配している様だった。

 油断したつもりは無かった。リアルは対峙した少年を思い出す。まだ若い桃髪の少年は、剣を持ってまっすぐに向かってきた。剣の腕もリアルには遠く及ばない。一撃を交わしあってそれはすぐ分かった筈だったのに。いや、違う。剣を交わす度に、彼の攻撃は鋭さを増していった。大地に水が染み込む様に早く。驚異的な速度で、彼は強くなっていったのだ。
(あれは……危険だ)
 末恐ろしさを感じて、リアルは手を強く握り締めた。勝てるのか。いや、勝たなくてはならない。大丈夫だ。ゼロ様は私よりも本当に強いのだから。そう思っていても、嫌な予感は何故かぬぐえなかった。握った拳が、妙に冷えていた。