絵画実体能力。稀有な力を宿したとある家族があった。母と姉妹二人の仲睦まじい一家であったが、まだ姉妹が幼い内に母が急逝してしまう。母を恋しく思った姉妹、ペイントローラーとアドは二人で母親の肖像画を描いた。精魂込めて描いたその絵は二人の最高傑作と言っても過言では無い程の完成度を誇り、彼女達の能力によって肖像画は母親として実体化した。
当初は優しい生前の母の様に彼女達に接していた肖像だったが、日常生活を送る中で絵の具が経年劣化し始め、次第に異質な行動をとり始めた。ある時、母親が幼い子供を殺そうとする場面を目撃し、二人はもうこれは母ではない怪物だとして、意を決して肖像を破壊する事にした。ところが、それを知った母親の肖像は逃走し行方を眩ませた。これが後に絵画の魔女ドロシアと呼ばれる絵画の始まりであった。
姉妹はこのまま肖像を放っては置けまいと、その行方を探しに旅に出た。ポップスターにいるらしき情報は得たものの、その後の足取りは掴めず手を揉む日々が続いていた。
一方、絵画の世界で力を蓄えながらドロシアはプププランドに時折現れると、空間に筆を走らせていった。するとその部分はひしゃげた様に平面と化して、世界は次第に彼女のテリトリーである絵画となっていった。
ドロシアは劣化していく絵画としての自身を修復するために、他の命を自分に取り込んで生き長らえようとしていた。その為に、まずプププランド全域を絵画の世界と化し、そこに住まう全ての生命を吸収しようと企んでいたが、異常に気が付いたカービィと遭遇した。彼女はすぐに身を翻して空へ浮かぶ額縁へ逃げ込んだ。
そこは絵画の世界であり、カービィもドロシアを止めようと額縁の中に飛び込んだ。だが、絵画の世界では本物の人間であるカービィは上手く動けず二の足を踏んでいた。ただ、魔女は逃げる際に一本の絵筆を落としていた。カービィがそれを何とか拾い上げると同時に、元の世界へと繋がる額縁の向こうから声が掛けられる。
「カービィ、早くその絵筆をこっちに渡して!」
「あたし達姉妹がカー君の道を作ってみせるから!」
それはずっと母の肖像を追い続けて来たペイントローラーとアドの二人であった。彼女達はカービィから絵筆を受け取ると、外の世界からその絵筆でカービィの進む道を描き、協力して母の肖像、ドロシアへの道を切り開いていった。
カービィがドロシアの元にまで至ると、逃走を諦めたドロシアはカービィへと襲いかかる。絵画世界においてはドロシアは最強最悪の敵であったが、ペイントローラーとアドという二人の天才的画家のサポートにより、何とか倒す事に成功する。
ぼろぼろと彼女を構成する絵の具が崩れ落ちて行く最中、死にたくないともがいていたドロシアだったが、カービィの周囲に描かれた虹色の道の筆致を見て、何かに気が付いた様に瞠目し、天を仰いだ。
「ああ……良い絵を描く様になったわね」
最期に彼女が浮かべていたのは怪物の笑みでは無く、母親のそれだった。
この一連の事件から数年後、アドとペイントローラーは今度は絵画実体能力を使わずに、母の肖像をまた描いた。穏やかな微笑みを浮かべた母の肖像は、後世でも高く評価される二人の一大傑作である。
【設定】絵具の劣化:日常生活での劣化もあったが、何よりも大気に漂っていた暗黒物質を取り込んでしまった事が彼女が狂った原因。母として、娘たちに良くない物を吸わせたくないと率先して吸収した結果、ドロシアは狂ってしまった。