鏡の大迷宮

本編紹介。復讐に現れたダークマインド。

 カービィに退けられたナイトメアは夢の泉の奥底に隠れ、傷を密かに癒す事にした。その間の外界からの守りとして、彼女の騎士代わりに作られたのがダークマインドであった。彼はナイトメアが食べる悪夢を産む餌の役割も担っていた為、夜毎悪夢を見せ苦痛を与える彼女に憎悪を抱いていた。その一方で彼女が時折見せる少女の様な純真さにいつしか惹かれて行く事となる。
 だが、マインドはその感情を自ら否定する。ナイトメアの創造物である己は元より主を愛するものとして感情をも創られたのではという疑心から、彼は感情を表に出すのは止め、ヘラヘラとした仮面を被り接する様になった。

 二人は互いに本音を明かさない微妙な関係を続けていた。そんな中、傷が治ったナイトメアがカービィへの報復のため再び動き始めようとしたが、そんな彼女の手をマインドは取って言った。
「マスターが出るまでもない。今度は俺にやらせてくれないかイ?」
 彼女をまた害されて堪るものか。どう自分の感情を偽ろうとしても、マインドが動いた理由はただそれだけだった。

 マインドはカービィを殺すにあたり鏡の世界を舞台に選んだ。鏡の世界は意志を持つ道具、ディメンションミラーが形成した世界であった。その魔鏡は自の世界を現実に近付けさせたいという願望があり、自らの中により多くの現世の人間を取り込もうと企てていた。彼は鏡と契約を交わし、鏡の国での全権を一時的に得る代わりに、沢山の人間を鏡の中に呼ぶ事を約束した。

 そしてマインドは様々な人間を鏡の国へ誘い込み、実際に願いを叶えてやった。
 例えば滅びた祖国の再興を願う王。切断した手を元通りにと願う奇術師。子供を亡くした魚人族の母親、主を無くした機械人形。鏡の国での全権を手にしたマインドに叶えられない願いは何一つなかった。彼らに甘い蜜を与えた上で、マインドは「星の戦士がこの世界を壊しにやってくる」と嘯いた。そうして中に入った人間達は己の願いを守る為に、この世界を害すカービィを全力で殺すだろう。それは本来この星の人間を守らんとする勇者の相手として、最高の相手だった。そんな己の意志で動く刺客を鏡の国の迷宮に配置し、マインドはカービィを呼び込む準備を進めていた。

 だが、異変を察知したメタナイトが暴走を止める為出向いた時、彼はディメンションミラーに自身を映されてしまう。その瞬間、全身を黒い鎧で固めた自分自身の影、ダークメタナイトに襲われる。人食らい鏡のであるディメンションミラーは、映ると対象の隠された欲望を肥大化させ、反転した存在を生み出す力があった。
 ダークメタナイトは、もしずっと剣の道に進んでいたら、という剣士としての夢を進んだメタナイトの姿だった。全てを剣に注ぎ込んたダークメタナイトの鋭い剣戟に押され、メタナイトは彼に捕われてしまう。

 そして、いつも通りのんびり過ごしていたカービィの元にダークメタナイトが現れる。メタナイトと瓜二つの風貌にカービィが動揺していると、男はカービィの身体を十字に切り裂き、彼は翼を翻して去って行った。その一撃でカービィの肉体には傷はつかなかったものの、彼の心は四つに分けられてしまい、同時に彼の体はまるで分身したかのように四人に増えていた。暫くお互いを呆然と眺めていたが、心が分かれようとカービィ達の勇者の心は揺らぐ事は無く、彼らはダークメタナイトが向かった先、鏡の大迷宮へ挑むのだった。

 四人のカービィは手分けして迷宮の探索をした。各エリアの番人達は皆己の願いの為に全力で襲い掛かってきたが、カービィ達は持ち前の勇気と力で乗り越え攻略を続けていった。その最中、カービィは己の影であるシャドーカービィと出会う。カービィと外見はそっくりなものの、内面が子供っぽい彼は迷宮の所々でカービィにちょっかいを出してきた。

迷宮の仕掛けを解き、全ての番人を倒すと、ディメンションミラーが輝きマインドの場所へと繋がった。
「沢山の他人の願いを踏み躙って来るとは、素晴らしい勇者様だねェ」
そう言ってカービィを見下す青い瞳は憎悪でぎらついていた。どうせ殺すなら自分の手で殺したかった、と語るマインドはカービィに襲い掛かった。時に鏡の中に潜み、時に幻を見せて次々とカービィの分身を鎌で貫き殺していく。

 窮地に陥ったカービィに、ダークメタナイトの拘束から逃れたメタナイトが剣を投げ渡した。それこそが虚構を打ち砕く剣、マスターソードだった。それこそが虚構を打ち砕く剣、マスターソードだった。剣を手にしたカービィがマインドを睨みつけると彼はそれを鼻で笑い、真の姿を顕わにした。

 彼の四肢は歪にぼこぼこと変化していき、肌は黒と橙のまだらになった。 巨大な目玉が腹に浮かび上がった異形の姿になった彼の攻撃は苛烈さを増し、カービィも極限まで追いつめられてしまう。そんな折、シャドーカービィが今のマインドの本体は彼自身ではなく、 彼の周囲にある鏡の方だと伝えた。その助言に従い、カービィがその鏡を打ち砕くとマインドの胴にざくりと一線が走る。これで決着かと安堵した途端、マインドは胸の傷も厭わずにカービィの心臓を狙い一撃を放った。その決死の一撃を止めたのはメタナイトの剣だった。最期の攻撃の隙を突き、カービィはメタナイトと共にマインドを切り伏せ、 鏡の国の王はここで息絶えた。

 なお、カービィが内に抱いていた願いは「昔の記憶を取り戻したい」という物だった。ディメンションミラーが作ったシャドーカービィは正に彼の幼少期の体現だったのである。幼き星の戦士は「鏡の国は自分が守る」と笑い、現世と鏡の世界の平和を共に誓うのだった。

◆◆◆

RE:夢の泉の物語

 マインドの死を知ったナイトメアは胸が苦しくなり、カービィへの殺意を抑えきれなくなった。彼女は持てる力の全てを使い、カービィへ再び戦いを挑む。夢の泉の力を再び悪用し、人々に延々と悪夢を見せてはそれを食らい、以前より強大な夢魔として変じていた。そうして前回は隠していた真の姿も解放してカービィへ死闘を挑んだが、力及ばず敗れ去る事となる。
「さっさと殺しなさい。もう、この世界で生きる意味も無い……」
 そう話すナイトメアをカービィは殺さなかった。この前に解決したマターズとの一連の事件で、こうした戦いの連鎖から抜け出したかったのだ。

 カービィとの対話の中で、ナイトメアは自分がマインドを愛していた事を知る。そうして彼女は夢魔として残った最後の力でマインドを蘇らせる。互いへの愛情を自覚した二人は、以降夢の泉の管理者として共に生きていく。

「私が見るのは、いつだってお前の夢が良い」


【設定】ディメンションミラー:ハルカンドラの民が作った道具の一つ。ハルカンドラの民が移住すべき世界の「バックアップ」を保存するために生成されたものだったが、内部のコアが経年劣化と暗黒物質の汚染で歪んでしまい、現世の人間を取り込もうとする魔鏡となった。その結果、人を釣る餌として映った者の望みを鏡の世界の中では叶えている。鏡の大迷宮後、シャドーカービィやダークメタナイトはこの鏡を抑え込もうと尽力し続けている。