ぐるる、と獣の唸り声の様な音が狭い階段に鳴り響いた。それを無視して少年は土を掘って固めただけの簡素な段を勢いよく駆け下りる。キャラメル色の髪にくりくりとした黒い瞳の小柄な少年は走り通しで荒くなった呼吸を呑み込んで、辿り着いた先の木の扉をばあん、と開いた。暗くひんやりとした小さな部屋の四方へ目を走らせると、その惨状に彼は大きな瞳を零れ落ちそうな程見開いた。
「…ぜ…全部無くなっている…」
彼の身長よりも高い棚にみっちり置かれていた筈の野菜や果物、麦に米に肉。家の食糧庫に貯蔵していた筈の全てが消え失せていた事実を視認すると幼い風貌の少年、ワドルディは悲痛な表情を浮かべてがっくりと肩を落とした。追い打ちをかけるかの様にぐるる、とまた音が鳴った。
――彼の腹の虫だ。
呆れる程平和な国プププランド。のどかな日常ばかりを続けていたかの国で、一夜にして全ての家の食糧庫から食物が消えるという奇妙な事件が起きた。それはデデデ山からやってきた小国の主、デデデ大王による略奪で、プププランドの秘宝の「きらきらぼし」と呼ばれる星のかけらも簒奪されてしまう。
住民は困り果てた。彼らは長い間平和を謳歌し過ぎてきた為、誰かと争う術、戦う心をすっかり失ってしまっていたのだった。
そんな中、プププランドの住民のワドルディは家の前に行き倒れていた一人の記憶喪失の少年と出会った。カービィと名乗った少年は事情を聞くと僕が力になろうと力強く微笑んで、単身大王の元へと向かうのだった。
デデデ山に辿り着いたカービィは、そこで青髪の少年王、デデデ大王と相対する。カービィは食糧やきらきらぼしを返す様申し立てたが、大王は聞く耳を持たず、二人は矛を交える事になる。接戦ののち、カービィに負けた大王は不承不承食糧等を返還する事を約束した。
何故こんな事をしたのかとカービィが問い詰めると、彼が統べる山合の国は不作が続いており、深刻な食糧不足に陥っていると答えた。まだ若く血気盛んな大王は、足りないなら奪えば良いと思い立ち、僅かな兵を引き連れて略奪に至ったとの事だった。
経緯を聞き、カービィはプププランドの住民と大王の間を取り結んだ。住民は食糧や秘宝を返してくれるなら不問にするとした上、余った作物は彼の国へ融通しても良いと言った。余りにも気前の良い返事をした住民に大王は驚きながらも感謝を伝え、代わりに戦う力を持たない彼らに武力を提供すると約束した。
――後日、プププランドの平原に大王は城を築く。曰く、「こっちの方が守りやすいし、それに前の城はガタが来てたからな! 良い機会だから移住する事にした!」と悪びれなく笑った。その後、彼はプププランドの自称国王として君臨し、住民の暮らしを豊かにしたり問題を起こしたりと、平和なプププランドに新たな風を舞い込む事となるのだった。